迷走台風とは?なぜ起こる?過去の事例と進路予想が難しい理由

台風の進路予報を見て、「昨日までとはまったく違う方向に進んでいる」と驚いたことはないでしょうか。

ニュースなどでは、進路が定まらなかったり、通常とは異なる方向へ進んだりする台風を「迷走台風」と呼ぶことがあります。ただし、「迷走台風」は気象庁が使用する正式な表現ではありません。

では、なぜ台風はときに複雑な進路をとるのでしょうか。

この記事では、迷走台風と呼ばれる台風の特徴や複雑な進路になる理由、2023年の台風6号など近年の代表的な事例、進路予想を見るときのポイントをまとめます。

 

この記事のポイント
  • 「迷走台風」は正式な気象用語ではない
  • 気象庁では「複雑な動きをする台風」と表現している
  • 台風の進路は太平洋高気圧や偏西風など周囲の風に大きく左右される
  • 近年では2023年台風6号、2018年台風12号などが複雑な進路をとった
  • 動きが遅い台風では同じ地域への影響が長引くこともある
  • 進路が定まりにくいときほど、最新の予報を確認することが重要

「迷走台風」とは、進む方向が何度も変わったり、一度進んだ方向から戻ったり、長時間ほとんど動かなかったりするなど、複雑な進路をとる台風を指して一般的に使われている言葉です。

ただし、気象庁は「迷走台風」という表現を使用していません。気象庁の「気圧配置・台風に関する用語」では、「迷走台風」は使用しない用語とされ、代わりに「複雑な動きをする台風」と表現しています。その理由についても「台風が迷走しているわけではないので用いない」と説明されています。

参考:気象庁「気圧配置・台風に関する用語」

実際には、台風が自ら行き先を変えているわけではありません。台風の進路は周囲の大きな風の流れに左右されており、その流れが弱かったり変化したりすると、結果として複雑な動きに見えることがあります。

そのためこの記事でも、一般的に知られている「迷走台風」という言葉を使いつつ、気象庁の表現に合わせて「複雑な動きをする台風」として説明していきます。

迷走台風はなぜ起こる?

台風の進路に大きく関係しているのが、太平洋高気圧の周辺を流れる風や偏西風です。

気象庁によると、台風の進路は太平洋高気圧の周辺部の風の流れや、中緯度を流れる偏西風に左右されます。

例えば、太平洋高気圧の縁に沿って進んできた台風が本州付近まで北上すると、偏西風に流されて速度を上げながら北東方向へ進むことがあります。

一方、台風を運ぶ上空の風が弱い場合には、台風の速度が遅くなったり、進む方向が定まりにくくなったりします。特に夏は上空の風が弱くなりやすく、気象庁も「夏台風」について、秋台風と比べて動きが遅く、複雑な動きをするものが多いとしています。

また、進路を左右する要因は一つとは限りません。太平洋高気圧の位置や勢力、偏西風の流れ、上空にある別の渦などが組み合わさることで、台風が一度南へ進んだ後に北上したり、東へ進んでいた台風が西へ向かったりすることもあります。

近くに別の台風が存在する場合には、お互いの動きが影響し合うこともあります。一般には「藤原の効果」と呼ばれることがありますが、気象庁では、ほかの高気圧や偏西風などの影響も受けるため、個々の台風について相互作用の程度を明確に示すことが難しいとして、この言葉を解説には使用していません。

つまり、「迷走台風」という特別な種類の台風が存在するのではなく、台風を取り巻く風や気圧配置が複雑になることで、結果として進路も複雑になると考えると分かりやすいでしょう。

藤原の効果とは?台風同士が近づくとどうなる?過去の事例と迷走台風との関係

近年の迷走台風・複雑な進路をとった代表例

過去には、通常とは異なる方向へ進んだり、長期間ほとんど同じ地域にとどまったりした台風が何度も発生しています。ここでは、近年発生した台風の中から、複雑な進路をとった代表的な4例を紹介します。

台風進路の特徴
2023年台風6号沖縄付近でほぼ停滞した後、西進から東進へ
2018年台風12号三重県に上陸後、西日本を東から西へ横断
2017年台風5号長期間にわたりゆっくり複雑な経路を移動
2016年台風10号一度南下した後に方向転換し、東北地方へ上陸

2023年 台風6号|沖縄付近で停滞した後に東へ

2023年の台風6号は、近年の中でも複雑な動きが分かりやすい事例です。

7月28日にフィリピンの東で発生すると発達しながら北上し、その後は西寄りへ進路を変更。8月2日には沖縄本島と宮古島の間を通過しました。

ところが、その後は西への動きが遅くなり、8月3日から4日にかけて宮古島の北の海上でほとんど停滞します。そして4日には、それまでとは反対となる東方向へ進路を変更しました。

この影響で沖縄地方では約1週間にわたり台風の影響が続き、沖縄本島地方などでは二度にわたって暴風域に入る異例の状況となりました。

単に進路が曲がっただけではなく、「西へ進む→ほぼ停滞する→東へ戻る」という動きをしたことから、迷走台風と呼ばれる台風をイメージしやすい事例といえます。

2018年 台風12号|西日本を東から西へ横断

2018年の台風12号も、非常に珍しい進路をとった台風です。

7月29日に三重県へ上陸すると、その後は西日本を西へ進みました。

日本へ接近する台風は、一般的には南から北へ進み、その後偏西風などの影響を受けて北東方向へ進むケースが多いため、東から西へ進む動きは異例です。

気象庁によると、台風12号は1951年の統計開始以降、西日本を東から西へ横断した初めての台風となりました。

この珍しい進路には、太平洋高気圧と上層のチベット高気圧の張り出しに加え、偏西風の蛇行によってできた上空の渦が影響していたと分析されています。

2017年 台風5号|19日間にわたって複雑な経路を移動

2017年の台風5号は、進路だけでなく、台風として存在した期間の長さでも特徴的な台風です。

南鳥島の東海上で発生した後、日本の南東から南の海上を長期間かけて移動し、最終的には和歌山県へ上陸しました。

気象庁は、台風5号について「ゆっくりとした速度で複雑な経路を辿った」としており、台風として存在した期間は19.00日に及びました。当時の平均5.3日と比べても非常に長く、統計上2位タイの長寿台風となっています。

複雑な進路となった背景には、上空の渦や別の台風との相互作用、日本付近で偏西風が北へ蛇行していたことなどがあったと気象庁は分析しています。

2016年 台風10号|一度南下してから東北地方へ

2016年の台風10号も、通常とは大きく異なる動きを見せました。

8月19日に八丈島の東海上で発生した後、25日ごろまではゆっくりと南方向へ移動。その後は北東方向へ進路を変え、さらに北北西方向へ向きを変えて日本列島へ接近しました。

最終的には8月30日18時前に岩手県大船渡市付近へ上陸。台風が東北地方の太平洋側から上陸したのは、1951年の統計開始以降初めてでした。一度日本から離れるように南下した後、方向を大きく変えて東北地方へ向かったという点で、非常に特徴的な進路をとった台風です。

過去の台風が実際にどのような経路をたどったのかは、気象庁の「台風経路図」で1951年以降の台風を年ごとに確認できます。

参考:気象庁「台風経路図」

迷走台風はなぜ進路予想が難しい?

複雑な動きをする台風では、「昨日見た予報と今日の予報で進路が大きく変わっている」ということもあります。

これは必ずしも予報が大きく外れたという意味ではありません。気象庁によると、特に台風を移動させる上空の風が弱い場合や、その風の予想が安定していない場合には、進路予想が難しくなります

数日後に太平洋高気圧がどこまで張り出すのか、偏西風がどこを流れるのかといった予測が少し変化するだけでも、その後の台風の進路には大きな違いが生じる場合があります。

こうした予測の幅を表しているのが「予報円」です。予報円は、予報された時刻に台風の中心が約70%の確率で入ると予想される範囲を示しています。

そのため、予報円が大きく描かれている場合は、台風自体が大きくなるという意味ではありません。進路予想の不確実性が大きいことを示しています。また、予報円の中心を結んだ線が表示されていても、必ずその線の上を台風が進むわけではありません。

参考:気象庁「予報が難しい現象について(台風による暴風と大雨、高潮)」

複雑な動きをする可能性がある台風ほど、一度確認した進路予想だけで判断せず、更新された情報を確認することが重要です。

迷走台風で注意したいこと

複雑な進路をとる台風で特に注意したいのが、影響が長期化する可能性があることです。

2023年の台風6号では、沖縄付近で台風の動きが遅くなり、進路を変えたことで、沖縄地方は約1週間にわたって影響を受けました。

「○日には遠ざかる予報だったから大丈夫」と考えていても、その後の気圧配置によって進路や接近する時期が変わる場合があります。複雑な進路が予想されている場合は、特に次の点を意識しておきましょう。

  • 数日前に見た進路予想だけで判断しない
  • 台風の速度が遅い場合は影響が長引く可能性を考える
  • 予報円の中心線だけではなく、予報円全体を見る
  • 気象庁の台風情報や警報・注意報をこまめに確認する
  • 大雨が予想される場合は、台風の接近を待たず早めに備える

台風の進路予報は時間の経過とともに更新されます。特に進路が定まりにくい台風では、「最初の予報では来ないはずだった」「一度遠ざかったから大丈夫」と決めつけないことが大切です。

まとめ

「迷走台風」は一般的によく使われる言葉ですが、気象庁では正式には使用せず、「複雑な動きをする台風」と表現しています。

台風の進路は、太平洋高気圧の周辺を流れる風や偏西風などに大きく左右されます。台風を運ぶ風が弱かったり、周囲の気圧配置が複雑になったりすると、停滞や方向転換など通常とは異なる動きになることがあります。

近年だけを見ても、2023年台風6号のように沖縄付近で停滞した後に進行方向を変えたケースや、2018年台風12号のように西日本を東から西へ横断したケースなどがありました。

複雑な動きをする台風では、数日前の予想から進路が変わることもあります。

一度確認した予報だけで判断せず、台風が接近する可能性がある間は、気象庁などから発表される最新の進路予想を確認しておきましょう。

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